働き方改革を推進するための関連法律の整備に関する法律(以下、「働き方改革関連法」という。)が、平成30年(2018年)6月29日、参議院で可決し、成立した。働き方改革関連法により、仕事や賃金のあり様が変わっていくことが想定される。以下、今回成立した働き方改革関連法の要点を説明する。特に下線部の時間外労働の上限規制、高度プロフェッショナル制度の創設、不都合な待遇差を解消するための規定の整備は、働き方に大きな変化をもたらしうるものとなるであろう。
第1 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現
1、 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法及び労働安全衛生法の改正)
(1) 時間外労働の上限 時間外労働の上限は、原則として、月45時間、年360時間とする。臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む。)、複数月平均80時間(休日労働を含む。)を限度とする。 ただし、適用猶予・除外の事業・業務あり。
(2) 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し 月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。
(3) 一定日数の年次有給休暇の確実な取得 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならない(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない。)。
(4) 労働時間の状況の把握の実効性確保
事業者は、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならない。
(5) フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。
(6) 高度プロフェッショナル制度の創設
特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度):職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。なお、対象労働者の同意の撤回に関する手続を労使委員会の決議事項とする、という修正が衆議院でなされた。
ア 健康確保措置としては、年間104日の休日を確実に取得させる措置をとることが義務化されたほか、①インターバル措置、②1月または3月の在社時間等の上限措置、③2週間連続の休日確保措置、④臨時の健康診断のいずれかの措置を実施することが義務化された。
イ 制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならない。
2、 勤務時間インターバル制度の普及推進等(労働時間等設定改善法の改正)
(1) 勤務時間インターバル制度の普及促進
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない。
(2) 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進
企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の労働時間等設定改善企業委員会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができる。
(3) 事業主の配慮
事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮するよう努める、という修正が衆議院でなされた。
3、 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等の改正)
事業者は、衛生委員会に対し、産業医が行った労働者の健康管理等に関する勧告の内容等を報告しなればならない(産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場の場合)、等。
事業者は、産業医に対し産業保健業務を適切に行うために必要な情報を提供しなければならない(産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場の場合)、等。
第2 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
1、 不都合な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法の改正)
(1) 不合理な待遇の禁止
短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不都合な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨の明確化。
(2) 均等待遇の確保
有期雇用労働者について、正規雇用労働者と①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同一である場合の均等待遇の確保の義務化。
(3) 派遣労働者についての待遇の確保
派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等)を満たす労使協定による境遇のいずれかを確保することの義務化。
(4) ガイドライン
(1) から(3)に関するガイドラインの根拠規定の整備。
2、 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法の改正)
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。
3、 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。
第3 施行日
1、 第1の「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現」に係る改正は、平成31年(2019年)4月1日に施行される(ただし、中小企業における時間外労働の上限規制に係る改正規定の適用は平成32年(2020年)4月1日からとなり、中小企業における割増賃金率の見直しは平成35年(2023年)4月1日からとなる。)。
2、 第2の「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」に係る改正は、平成32年(2020年)4月1日に施行される(ただし、中小企業におけるパートタイム労働法及び労働契約法の改正規定の適用は平成33年(2021年)4月1日からとなる。)。
以上、働き方改革関連法の要点を説明した。企業によっては、業務の見直しなどの対応が求められることになるであろう。
・参考文献等
(1) 厚生労働省(2018年)「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の概要」厚生労働省、URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000307111.pdf (最終検索日: 2018年7月6日)
(2) 日本経済新聞(2018年6月30日)「働き方改革法でどう変わる?」『日本経済新聞』
(3) 日本経済新聞(2018年7月5日)「くわしくわかる 働き方改革法 3本柱 効率労働実現へ一歩」『日本経済新聞』