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Restructuring Update

イラン、ホルムズ海峡
そして今後のリスク要因

April 6, 2026

2026年2月28日、アメリカ合衆国および同盟国は、イランの指導部、ミサイル関連施設および核関連施設を標的とした軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」を開始した。断続的な攻撃とミサイルおよびドローンによるイランの報復が続き、地域紛争へと発展している。経済活動に対し本紛争が与える直近の影響の一つが、石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、化学品、石油化学製品など産業用原材料の輸送の要衝であるホルムズ海峡における海運の混乱である。本稿で述べるとおり、同海峡の封鎖はペルシャ湾(湾岸)地域で直接事業を展開する企業に限らず、他の企業も、エネルギーおよび原材料コストの上昇、輸送の混乱や遅延、取引先の信用悪化、流動性の逼迫などを通じて実質的なリスクに直面し得る。こうしたイラン紛争による諸問題が突発的な経営難へ発展するリスクを軽減するため、適時開示、流動性管理、契約上の保護措置の確認などについて早急な対応が求められる。

ホルムズ海峡の混乱による直接的影響

ホルムズ海峡における混乱は、まずエネルギーおよび海運市場に顕在化したが、その影響はサプライチェーンおよび信用市場へと波及していくと思われる。

エネルギーコストの急騰

まず影響を受けるのはエネルギー価格の急騰である。世界の石油取引の約25%、LNG取引の約20%がホルムズ海峡を通過しており、同海峡の混乱は燃料価格の上昇にとどまらず、LNGに依存する製造拠点や社会インフラにおける電力、蒸気および暖房各費用も押し上げる。東アジアおよび欧州は湾岸産の原油、LNG、石油化学製品への依存度が高く、特に影響を受けやすい。また、湾岸からの直接輸入は限定的であるものの、同海峡を経由する原油に依存する東アジアの精製製品を輸入するオーストラリアなどにも影響が及ぶ。燃料価格の上昇の持続は消費を抑制し、消費者向け事業の事業環境の悪化につながる。また、エネルギー価格の高止まりはインフレを助長し、金融緩和の遅れを通じて、高レバレッジ企業の資金調達環境を悪化させる可能性がある。

海運の混乱

今回の紛争は海運にも影響を及ぼしており、船主および保険会社が安全リスクを再評価する中、船舶の通航量は著しく減少している。すでに複数の船舶が攻撃を受けており、機雷による脅威も混乱を長期化させると思われる。戦争リスク保険料は船価の約0.2%から最大1%程度へ上昇し、一部の保険会社は引受を停止している。これに対し米国国際開発金融公社(DFC)は200億ドル規模の再保険枠を準備しているが、それでも喜望峰経由へ航路を変更する船舶は多く、結果として迂回による航海時間の延長、燃料消費の増加、貨物コストの上昇、納品遅延の影響が生じると思われる。安全リスクが低下し、ホルムズ海峡の航路が再び商業的に保険付保可能と評価されるまで、通航量の正常化は見込めないだろう。

化学品セクターへの影響

化学品メーカーは価格および原材料の両面で影響を受ける。湾岸地域は欧州に対し、ナフサ、LPG、肥料などの石油化学原料を供給している。また、金属加工に不可欠な硫黄および硫酸関連の供給にも影響が及ぶ。これらの生産停止や輸送の遅延が生じれば、欧州メーカーが代替品を速やかに、かつ低コストで調達することは困難となる見込みである。その結果、汎用化学品および特殊化学品の双方で影響が想定され、エネルギーコストの上昇と相まって、生産抑制、利益率の低下およびキャッシュフローの悪化につながる可能性がある。

イランによる報復リスク

イランの報復は民間産業に対してさらなるリスクをもたらす。湾岸地域で大規模な事業を展開する企業は、エネルギーおよび輸送コストの上昇に加え、ミサイルやドローンによる脅威によって操業、インフラ、施設アクセスが中断されるリスクに直面する。
固定費が高い企業や流動性が乏しい企業では、短期間の操業停止であっても深刻な資金繰り問題につながり得る。

また、湾岸地域以外もサイバー攻撃による報復の対象となり得る。脆弱なネットワーク、インフラや狙いやすい企業は、イランに関係するグループの標的となる可能性があると米国当局は警告している。限定的な侵入や妨害であっても、業務停止・信用毀損・多額の復旧費用などを引き起こす可能性がある。

政府資金の再配分リスク

紛争の長期化は、米国政府による国内の民間向け資金にも影響を及ぼし得る。米国のエネルギー省はエネルギーおよび製造プロジェクトを、農務省は農村エネルギーや農業およびバイオ燃料を、運輸省および連邦航空局はインフラ整備関連事業を支援している。米国では財政赤字が常態化しているものの、議会が予算上限・つなぎ予算、・赤字是正などを念頭に置く中で紛争が長期化すれば、各年度の予算に依存する事業の予算確保リスクは高まる可能性がある。もっとも、戦費は通常予算とは別に緊急・補正予算で賄われる場合も多く、またエネルギーや運輸関連の事業はトラストファンドや複数年度予算など多様な財源に依拠しているため、一律に影響を受けるわけではない。それでもなお、「責任ある連邦予算委員会(Committee for a Responsible Federal Budget)」は、連邦政府の財政余力が限られていることを理由に、戦費の追加予算に警鐘を鳴らしている。こうした状況は、公的資金を設備投資計画の前提とする企業にとって、実質的なバランスシートリスクとなり得る。

最も影響が大きい業界

化学・石油化学

欧州の化学・石油化学メーカーは、比較的早い段階で財務的な圧力に直面する可能性が高い。ナフサ、LPG、メタノールなどの原料在庫は短期的な混乱には対応できるものの、長期化には耐えられず、既存在庫が消化されれば、供給不足はポリマー・プラスチック、特殊化学品へと波及する見込みである。

包装・素材

包装・素材メーカーは、エネルギー、石油化学、アルミニウムといった供給網の下流に位置し、湾岸地域の混乱の影響を受けやすい。PVCやPETに依存するプラスチック包装メーカーは、原材料コストの上昇が販売価格への転嫁を上回る場合、特に脆弱となる。価格転嫁には通常、数週間から数か月の時間差があるため、その間は利益率の低下や運転資本の圧迫が生じやすい。また、アルミ包装、ガラス、紙の各メーカーもエネルギー集約型であることから、コスト上昇の影響を強く受ける。結果として、本セクターは原材料費とエネルギーコストの上昇に同時に直面し、紛争の長期化に伴い、流動性への圧力が急速に高まると見込まれる。

旅行・観光

旅行・観光関連企業は、コスト上昇と需要減退の双方に直面する。航空会社は、ジェット燃料価格の上昇、空域制限、航路変更、欠航、再予約や払い戻し対応、湾岸関連路線の需要減少といったコストを吸収するか、顧客に転嫁する必要がある。これらの影響は、ホテル、飲食業、空港内小売業など周辺ビジネスにも波及する。湾岸地域や利便性の低下した航路が長期間敬遠されれば、高レバレッジで利益率の薄い企業や運転資本に余裕のない地域企業ほど影響を受けやすい。

食品生産・農業

世界の尿素取引の約40%に加え、アンモニア、硫黄、リン酸の相当量がホルムズ海峡を通過している。これら肥料原料の供給が滞れば、北半球の作付け・施肥シーズンを前に農産物価格の上昇につながる。時間の経過とともに、肥料不足は飼料や家禽、豚肉、牛肉のコストにも波及する。最終的には価格転嫁が進むものの、通常は調達コストの上昇が先行するため、その間は利益率と流動性が圧迫される。

自動車工学

自動車サプライヤー、特に欧州のサプライヤーは、アルミニウム、化学品、プラスチックの供給不安とコスト上昇に直面する。湾岸地域の製錬所は欧州向けアルミニウム供給の重要な一翼を担っているが、ホルムズ海峡の混乱により、原料(アルミナ、ボーキサイト)の輸入および製品輸出の双方で制約を受けている。これは、EU制裁の下でロシア産アルミニウムの段階的削減が進む中で発生しており、影響は一層深刻である。原材料価格の上昇は、金属、プラスチック、樹脂、接着剤、断熱材、シーリング材など、車両全体に使用される部材のコストを押し上げる。

半導体製造・電子機器

流通するヘリウムの約40%は、LNG処理の副産物としてカタールで生産されている。ヘリウムは半導体製造に不可欠であり、実用的な代替手段は存在しない。カタールの生産停止により、世界供給の約3分の1が失われた状況となる。仮に生産が再開しても、輸送には専用容器が必要であり、供給の立て直しには時間を要する。輸入の65%をカタールに依存する韓国のメーカーは特に影響を受けやすく、AI投資や電子機器・医療機器需要の拡大で需給が逼迫する中、半導体生産への影響が懸念される。

建設資材

建設資材メーカーは、異なる最終市場に向けた製品でありながら、同様の原材料コスト問題に直面する。窓、ドア、屋根材、外装材、断熱材のメーカーは、金融不安やエネルギーコスト上昇による建設需要の減退と並行して、PVCや石油化学製品、アルミニウムの価格上昇に直面する。価格転嫁が遅れる場合、需要減少とコスト上昇が同時に収益を圧迫し、特に既に建設需要が弱い欧州企業にとって、収益性と流動性の双方で厳しい環境となる。

まとめ(Takeaways)

湾岸地域に直接的な事業拠点を持たない企業であっても、影響を受けないとは限らない。多くの企業にとって、短期間の混乱であってもバランスシートにどのような影響が生じるかを事前に把握しておくことが重要である。イラン紛争に起因する問題が急激な経営悪化へと発展するリスクを抑えるため、以下の対応が有効と考えられる。あわせて、変動の大きい地政学リスクに対する適切なガバナンスおよび受託者責任の履行を示す観点からも、検討が求められる。

  • 上場企業は、リスク要因や経営成績状況の分析(Management Discussion and Analysis)、Form 8-Kなどの開示内容の見直しを検討すべきである。また、経営陣および取締役会の意思決定体制が迅速な対応に適しているかも確認する必要がある。 
  • 上場・非上場を問わず、エネルギー価格上昇、輸送遅延、需要減少、金利低下の遅れといった前提の下で、短期・中期の流動性を再評価すべきである。あわせて、市場環境が悪化する前に、債務の満期、財務制限条項、借入枠の利用、ならびに債権者やスポンサーとの協議開始の条件なども精査する必要がある。 
  • 湾岸関連の調達や輸送に依存する企業は、価格転嫁の仕組みを確認するとともに、代替供給者や輸送ルート、備蓄の見直しを進めるべきである。契約についても、不可抗力条項、価格調整、解除条件を再確認する必要がある。 
  • 原材料や物流だけでなく、取引先(供給元、顧客、販売代理店等)の信用状況や事業リスクも把握し、供給途絶や支払遅延、契約不履行への備えを強化する必要がある。 
  • サイバーセキュリティ体制および保険の補償範囲についても、免責条項や通知義務を含め事前に精査しておくべきである。 
  • イラン紛争の長期化による財務ストレスは、貸し手や社債保有者、取引債権者、スポンサーなどの利害関係者が自らの立場を守るために結束・行動を強める契機となり得る。こうした動きは、財務環境の悪化とともに顕在化する可能性がある。 
  • 業績悪化後では対応余地が限られるため、事前にバランスシートの健全性を点検し、満期延長、負債管理、関係者対応の方針を検討しておくことが望ましい。

 


 

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