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FTCは、M&A契約の反競争的条項および人材引き抜き禁止条項に反対するキャンペーン継続中

5か月の間に、米国連邦取引委員会(FTC)は、企業買収契約に含まれる反競争的および人材引き抜き禁止条項が反トラスト法に違反したとして2件の審判を開始した。2019年9月、FTCは、ある企業買収の基本契約に不合理な反競争的条項が含まれるとして審判開始を決定*1、2020年1月に、FTCは、2つの合併当事者が当該合併の基本契約に基づく一連の違法な反競争的合意および人材引き抜き禁止合意によって実質的に競争を低下させたとして審判開始を決定した*2。これらの審判は、1976年のハート・スコット・ロディーノ反トラスト改善法(HSR法)に基づく通知義務の改正に従うもので、通知義務者が通知可能な取引を通知する際、当事者間のすべての反競争的合意を反トラスト当局に対して提出することを義務付けたものだ*3。
改正後のHSR法の通知義務に沿って見てみると、FTCの最近の審判は*4、反トラスト当局が焦点を当てる不合理な反競争的合意、人材引き抜き禁止合意その他類似の合意に対するより広範な活動*5にとって、企業買収契約は更なる標的となっていることを示す。
企業買収契約における反競争的合意、人材引き抜き禁止合意および勧誘禁止合意:どのような合意のことを指すのか、どのような場合に違法とされるのか?
反競争的合意、人材引き抜き禁止合意および勧誘禁止合意はさまざまな状況で生じる可能性があるが、これらの合意の最もよくある背景の1つは企業間取引だ。取引文書としては、これらの合意は、企業買収基本契約の条項の1つとして、または、主たる取引契約に付随する個別契約としてのいずれかの形式を取ることが多い。典型的には、反競争的合意は、買収契約のクロージング後の一定期間、特定の経済行為について、売り手が買い手と競合することを制限するものである*6 *7。対照的に、人材引き抜き禁止合意または勧誘禁止合意は、通常、一方当事者が他方当事者の特定の従業員を雇用または勧誘することを制限します。
これらの合意は、正当なビジネス上の利益を保護するのに役立つ可能性があるが、一方で、(非競争的合意の場合は)特定の製品またはサービスについて、もしくは(人材引き抜き禁止合意および勧誘禁止合意は)従業員について、被制限企業の当該市場での競争力を抑制するよう機能する。したがって、これらは反トラスト法の審査対象となる。反トラスト法当局および裁判所は、合理的に付随的である場合、または、合併、合弁事業またはその他の共同事業などの正当なビジネス上の利益を達成するためには必要不可欠である場合には、こうした合意の多くが適法であると認識している。しかし、(i)当事者の利益が正当であること、(ii)制限条項が当該利益の達成のために十分に補助的であること、および(iii)当該条項がその目的達成のためにその期間および地理的範囲において狭く設定されていることを合意の当事者が示すことを義務付けている。FTCの最近の審判は、企業間取引において当局が何を反競争的合意および人材引き抜き禁止合意として容認できるものとみているかについてガイドラインを提供するものだ。
企業買収契約における反競争的条項および人材引き抜き禁止条項に対する最近のFTCの申し立て
2019年9月、FTCは、NEXUS Gas Transmission LLC(Nexus)によるGeneration Pipeline LLC(GP)の買収は、当事者が買収基本契約に含まれていた反競争的条項により競争を阻害するとして審判開始決定をした(Nexus / GP審判)*8。当該反競争的条項は、天然ガスの輸送サーヴィスに関して、クロージング後3年間にわたりオハイオ州の3つの郡を含む一部地域について、GPの少数株主の1つであるNorth Coast Gas Transmission LLC(NCGT)が、Nexusと競合することを制限したものだ*9。FTCによれば、GPとNCGTは、競争制限地域内の特定の顧客にとって数少ない競争選択肢の2社であり、反競争的条項により競争が失われるとする*10。
2020年1月3日、FTCは、Axon Enterprise, Inc.(Axon)によるVieVu, LLC(VieVu)の買収完了*11および当事者の取引文書に含まれていた特定の反競争的条項に対する審判開始決定をした(Axon / Safariland審判)。当該取引に関連して、当事者は一連の反競争的契約、顧客勧誘禁止契約および従業員勧誘禁止契約を締結した。当該反競争契約には、VieVuの所有者であるSafariland, LLC(Safariland)に対する競合の制限として、(i)Axonが提供するさまざまな製品やサーヴィスに対して、当該企業間取引の一部として売却された事業とは関係のないものが含まれており、(ii)Axonの顧客に対するものも含まれていたとFTCは主張した*12。さらに、AxonおよびSafarilandは、互いの従業員を雇用または勧誘しないことに同意した*13。これらの契約はそれぞれ10年以上継続し、場合によっては世界中で適用されていた*14。
これらの審判の両方で、FTCは、反競争的条項の違法な側面を特徴づける類似の主張をした*15:
・ 当該反競争的条項は、「正当なビジネス上の利益を保護するためにその範囲を合理的に制限していない」ものであり、「競争を免れるという単なる一般的な欲求は正当なビジネス上の利益ではない」。
・ 当該反競争的条項は、買い手の投資を「保護するために必要ないかなる知的財産、のれんまたは顧客関係」も保護していない。
・ 仮に正当な利益が存在したとしても、Nexus / GP審判では、「当該条項は、NCGTに競争制限地域内でのいかなる競争機会も与えず、買収の時点で不透明な機会でさえ競合を回避した」ものであり、当該反競争的条項の地理的範囲は、「合理的に必要な範囲を超えていた」。また、Axon / Safariland審判では、当該反競争的条項はすべて10年以上制限しており、「合理的に必要な期間よりも長期間」だった*16。
特に、いずれの審判においても、問題の条項は、基本契約に付随する契約だった。にもかかわらず、FTCは、それらは買い手の投資を保護するのに合理的に関連していないとした。Nexus / GP審判では、FTCは、被買収会社の少数株主であるという事実を除いては、当該反競争的条項によって運用に影響を受けるパイプラインは、当該買収基本契約によって売却されたパイプラインと無関係であると主張した*17。Axon / Safariland審判では、FTCは、当該反競争的条項が、基本契約に関係しない製品および売り手がまだ開発していない製品にまで及んでいると主張した*18。さらに、いずれの審判でも問題の条項には、期間と地理的範囲の制限が含まれていたが、FTCは市場環境の観点から検討をした結果、いずれも合理的に必要な範囲を超えていると判断した。
取引文書中の反競争的条項に関するこれらの法執行活動からは、明確なルールは見いだせない。それどころか、これらの審判からは、企業買収契約におけるこれらの条項についての当局の評価は、徹底的であり、高度に事実関係に依存することが見て取れる。
実践のヒント
企業間取引に関係するかにかかわらず、反競争的条項、人材引き抜き禁止条項、その他同様の効果を持つ条項の使用を検討している企業は、反トラスト法の弁護士と相談して、当該条項が連邦および州の反トラスト法のいずれにも適合していることを確認すべきである。許容されうる条項は、買収基本契約の目的に密接に関連するもので、その範囲と期間が制限されたものである。合理的な条項にたどり着くためには、企図されている保護が必要な理由およびその目的を達成するために条項を調整する方法を検討する必要がある。企業は、当該合意自体の理論的根拠ならびにその期間および範囲を当局に対して正当化できるよう準備する必要がある。さらに、この分野でのFTCの最近の審判から明らかなように、これらの条項を取り巻く特定の事実や状況は、執行可能性の最終決定要素となるであろうから、同時期の営業記録は、当該条項を置く動機を反映するものとなるはずである。
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*1 Complaint, In the Matter In the Matter of NEXUS Gas Transmission LLC, et al., FTC File No. 191-0068 (Sept. 13, 2019)、https://www.ftc.gov参照。FTCは、最終的に、当事者と和解し、反競争的条項の削除およびいくつかのその他の条件のもと、買収基本契約の続行を許可した。Decision, In the Matter of NEXUS Gas Transmission LLC, et al., FTC File No. 191-0068 (Dec. 13, 2019)、https://www.ftc.gov参照。
*2Complaint, In the Matter of Axon Enterprise, Inc. and Safariland, LLC, FTC File No. 181-0162 (Jan. 3, 2020)、https://www.ftc.gov/system/files/documents/cases/d09389_administrative_part_iii_-_public_redacted.pdf参照。FTCは、完了した買収自体についても審判を開始。本審判は係属中。
*3 Bruce Hoffman, “All” means All: Submit side agreements with an HSR filing , Competition Matters Blog (Dec. 20, 2017 3:08 PM), https://www.ftc.gov/news-events/blogs/competition-matters/2017/12/all-means-all-submit-side-agreements-hsr-filing参照。
Premerger Notification; Reporting and Waiting Period Requirements, 81 Fed. Reg. 60258 (Sept. 1, 2016) も参照のこと。
*4 FTCは、過去の取引に基づく反競争的合意についても審判開始決定をした。例えば、Complaint, In the Matter of Oltrin Solutions, LLC; JCI Jones Chemicals, Inc.; Olin Corp.; and Trinity Manufacturing, Inc., FTC File No. 111-0078 (Mar. 7, 2013)、https://www.ftc.gov/sites/default/files/documents/cases/2013/03/130308oltrincmpt.pdf参照。
*5 司法省(DOJ)は、ここ数年間、違法な人材引き抜き禁止合意を訴追してきたことでメディアに大きく取り上げられてきた。DOJは、むき出しの人材引き抜き禁止合意はそれ自体違法とされ刑事訴追の対象となる可能性があることを明らかにしてきた。例えば、United States v. Knorr-Bremse AG, No. 1:18-cv-00747-CKK, 2018 U.S. Dist. LEXIS 142125 (D.D.C. July 11, 2018)(DOJは、民事訴訟で違法なむき出しの人材引き抜き禁止合意を起訴した。); Statement of Interest of the United States of America, Seaman v. Duke Univ., No. 1:15-CV-462 (M.D.N.C. Mar. 7, 2019) (No. 325) (DOJ ntervened in private litigation to reiterate its position that naked no-poach agreements are per se illegal)(DOJは、むき出しの人材引き抜き禁止合意自体は違法であるという立場を繰り返して、民事訴訟に介入した。); Barry Nigro, Deputy Assistant Attorney General, Antitrust Division, U.S. Department of Justice, Keynote Remarks at the ABA’s Antitrust in Healthcare Conference: A Prescription for Competition (May 17, 2018)(「当局はヘルスケア産業におけるほかの潜在的な反トラスト法違反の刑事事件について調査している。これには、・・・従業員の競争を制限する人材引き抜き禁止合意を含む。当局は、刑事執行機関を利用して市場を監視することが重要であると考える。」)、www.justice.gov/opa/speech/deputy-assistant-attorney-general-barry-nigro-delivers-keynote-remarks-american-bar
FTCは最近、反競争的条項の労働市場参加者への影響を評価し、FTCが規則制定、法執行、または公的機関を通じてこれらの条項に起因する潜在的な損害に対処すべきかどうかを検討する1日のワークショップを開催した。Non-Competes in the Workplace: Examining Antitrust and Consumer Protection Issues (Jan. 9, 2020)、https://www.ftc.gov/news-events/events-calendar/non-competes-workplace-examining-antitrust-consumer-protectionissues 参照。FTCは、今年後半にワークショップに関する報告書を発表する予定。
州レベルでは、当局はフランチャイザーとフランチャイジーとの間の違法な人材引き抜き禁止合意を標的にしている。例えば、Settlement Agreement Between the States of Massachusetts, California, Illinois, Iowa, Maryland, Minnesota, New Jersey, New York, North Carolina, Oregon, and Pennsylvania and Arby’s Restaurant Group, Inc参照。更に、少なくとも2つの州では、州司法長官が、特定の状況下では、人材引き抜き禁止合意自体が違法とされる可能性があると述べている。Complaint for Civil Penalties, Injunction, & Other Relief Under the Washington State Consumer Protection Act, RCW 19.86, State v. Jersey Mike’s Franchise Sys., Inc., No.18-2-25822-7-SEA at ¶¶ 65–66 (King Cty. Super. Ct. Oct. 18, 2018) (Washington Attorney General); Max Fillion & Joshua Sisco, Franchise No-Poach Agreements Likely per se Antitrust Violations in California, State Official Says, MLEX (Mar. 28, 2019) (California Attorney General)
*6 限られた例ではあるが、売り手が当該取引の一部として売却しない他の事業ラインを運営し続ける場合、買い手は売り手と競合することを禁止される場合がある。
*7 反競争的合意は、製造業者と販売業者との間の、ライセンサーとライセンシーの間の、または合弁事業の当事者間での契約によって発生する可能性もある。例えば、Polk Bros., Inc. v. Forest City Enters., Inc., 776 F.2d 185 (7th Cir. 1985) 参照。これらの反競争的合意も反トラスト法の審査の対象となるが、ここではその取扱いについて詳述しない。
*8 Nexus / GP審判¶14参照。
*9 Nexus / GP審判¶ 7参照。
*10 Nexus / GP審判¶ 12参照。
*11 FTCは、合併により、主に法執行機関と軍隊が使用する身体装着型カメラの販売における競争を減少させたと主張した。
Axon / Safariland審判¶2参照。*12 Axon / Safariland審判¶¶44-48参照。
*13 Axon / Safariland審判¶¶49-51参照。
*14 Axon / Safariland審判¶¶44-51参照。
*15 Axon / Safariland審判での以後の反競争的条項に関する参照は、人材引き抜き禁止条項および勧誘禁止条項を含む。
*16 Axon / Safariland審判¶53とNexus / GP審判¶15を比較のこと。
*17 Nexus / GP審判¶6参照。
*18 Axon / Safariland審判¶¶12、44、46参照。
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