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Sidley Updates

JOLCOファイナンスにおけるMAC条項の再検討

August 26, 2026

2026年のイラン紛争は、航空業界を取り巻く事業環境がいかに急速に変化し得るかを改めて浮き彫りにしました。紛争の激化により、わずか数日のうちに、空域制限、欠航や迂回運航、燃料費・保険料の上昇など、さまざまな運航上の混乱が生じました。

このような急激な環境の変化は、JOLCO(日本型オペレーティング・リース(コールオプション付))案件において、関連契約に定められる「重大な悪影響が生じていないこと」(no material adverse change、以下「MAC」)に関する条項がどのような役割を果たし、また、どのように機能すべきかを改めて検討する重要な機会となっています。

JOLCO案件において、レッシーとしては、合意された資金が予定どおり実行されることが重要です。一方、レンダーおよびレッサーにとっては、資金提供を決定する前提となった状況が、契約締結または取引実行までに大きく変化した場合に、その影響を考慮できることも重要です。MAC条項は、各当事者の異なる利害を調整し、取引実行までのリスクを適切に配分する上で大きな役割を果たしています。

多くのJOLCO取引では、契約締結時に、レッシーが直近の財務諸表の日付以降、その事業または財務状態についてMACが生じていないことを表明します。この表明が航空機の取引実行時にも繰り返されることに加え、MACが生じていないこと自体が資金実行の前提条件となる場合もあります。また、MACの対象範囲も、レッシーの事業、資産、業務または財務状態を広く対象とするものから、財務状態、義務の履行能力、さらには支払能力に限定するものまでさまざまです。したがって、MAC条項がどの様に機能するかを考える上では、その「適用期間」と「対象範囲」の双方を検討する必要があります。

適用期間:財務諸表から航空機の引渡しまで

レッシーの直近の財務諸表を基準とするMAC条項は、重要な情報上の空白を埋める役割を果たします。レンダーおよびレッサーが依拠する監査済財務諸表は、契約締結より数か月前のものであることが一般的です。そのため、財務諸表の日付以降MACが生じていないことを表明することにより、財務諸表に示された状況がその後重大に悪化していないことを確認することができます。

基準時は、契約締結時に問題となり得る状況が既に存在している場合に特に重要となりますが、従来のMAC条項だけでは、その後の状況の変化によるリスクを十分に捉えられない可能性があります。そのため、契約締結後に生じる事象や状況の悪化を適切に評価できるよう、取引の特性や想定されるリスクを踏まえ、MAC条項の対象範囲や判断基準をより具体的に、また状況に合わせて定めることが望ましいです。

対象範囲:どのような状況の悪化を対象とするのか

MAC条項を検討・交渉する際に重要なのは、その事象自体が一般的な意味で「重大」であるかではなく、その事象の結果として、当事者がMAC条項の対象とすることを合意した特定の重大な悪影響が生じているかという点です。

MAC条項の実効性を考える上では、重大な悪影響が既に顕在化している場合のみを対象とするのか、又は、今後生じる可能性が高い事象も含めるべきかという点も重要です。実際に支払遅延や債務不履行が発生するまでMAC条項が機能しないのであれば、レンダー及びレッサーにとって、資金実行前の信用リスクの変化に対応するための保護としては十分ではない場合があります。そのため、MAC条項の範囲を、重大な悪影響が既に生じている場合だけではなく、今後そのような悪影響が生じる可能性が高い場合にまで広げる事も、取引ごとに検討する必要があります。

また、航空会社の信用力に影響を及ぼす事象は、必ずしも一つの重大な事象として発生するとは限りません。例えば、空域制限、燃料費及び保険料の上昇、運航コストの増加、旅客需要の減少等がそれぞれ単独ではMACに該当しない場合であっても、これらが同時又は連続して発生することにより、全体としてレッシーの財務状態又は義務履行能力に重大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、MAC条項の適用を検討する際には、個々の事象のみならず、複数の事象による累積的な影響をどのように評価するかという視点も重要となります。

適切なMAC条項

航空業界は、その性質上、景気動向、地政学的情勢、燃料価格、為替、保険市場など、その他の外部要因の影響を受けやすい循環的な産業です。レッシーにとって取引実行の確実性が重要である一方で、取引実行までの間に状況が大きく変化し、レンダーおよびレッサーが資金提供を決定した際の信用判断の前提が崩れる可能性もあります。そのため、市場環境が急速に変化する局面では、従来の一般的なMAC条項が、当事者間で合意されたリスク配分を適切に反映し、レンダー及びレッサーの利益を十分に保護するものとなっているかを改めて検討することが重要です。

MAC条項を検討する上で最も重要なのは、こうした取引実行の確実性と信用リスクへの対応との間で、適切なバランスを図ることです。そのためには、当該取引における信用判断の内容、航空業界特有の循環性、地政学的リスクその他の具体的な事情を踏まえつつ、MAC条項の対象範囲、判断基準、基準時及び適用期間等を総合的に勘案し、慎重に設定することが求められます。

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Ito, Shigeyuki
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